愛しの君がもうすぐここにやってくる。

「あ、ありがとうございます」
そこでやっと私はそのぶつかった人の顔を見る。
ここにいるってことはうちの会社に用事がある人か、うちの会社の人か。

「ボタン、取れてしまいましたね。
すみません」
その男性は申し訳なさそうに言う。

「あっ、いいんですよ、これ、もともと取れそうだったんですよ」
私は両手を振って慌てて答える。

「でも・・・もしなにか不都合なことがあったら・・・。
ああ、そうだ、なにかあったら連絡ください」
そう言ってその男性は私に名刺を渡した。

「安倍 時也さん・・・?」
名前を声にしたとき、胸の中に小さな風が吹いたような感じがした。

え?なに?今の感じ・・・。

あ、この人、同じ会社なんだ、そして名刺に書かれている住所は京都支社。

―「午後から京都支社の人が挨拶に来るみたいよ」
「いやいや、考えてごらん、この人がたくさんいる東京でさ、同郷の人と会えるってなんかすごくない?」―

さっき3人で話していたことを思い出す。
そしてふと肩書きを見ると「支社長」の文字。
あ、もしかしてこのひとのこと?

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