愛しの君がもうすぐここにやってくる。

しばらく名刺を見つめていたけれど、ゆっくりと名刺からその男性の顔に視線を移動させる。
するとその人はとても懐かしそうに私のことを見つめていた。

え、どういうこと?どうして?
私、この人とどこかで会ったことあったっけ?

地元にいたときは京都に住んでいたけれど、職場は大阪市内だったし。
大阪から京都支社に行くってこともなかった。

だからこのひととは会ったことはないはず。
でも私はその人の胸元を見てドキッとする。

このひとのネクタイピン、紫の石、アメジストだ。
埋め込まれていたのは小さな石だったけれどすぐにわかった。
私がいつも持ち歩いている石と同じだからなのか、なぜか急に緊張する。

まじまじと彼の顔とネクタイピンを見比べてハッと我に返る。

なにやってんだ、私?

「すっ、すみませんっ!」
そう言って私は慌ててその場から逃げる。

カフェにコーヒー買いに行くなんて言って出てきたけれど、そんな気持ちの余裕はなくなってしまった。

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