愛しの君がもうすぐここにやってくる。
まだなんとなく温かい。
少しの間、たい焼きをじっと見つめる。
さっきまで私と今の私、いる世界が全く違う。
たい焼き屋のおじさんがあんなこと言うから、だからきっとこんな夢をみているんだ。
まあ、どうせこれは夢の中での出来事だし、そのうち目が覚めたらいつもの通りに戻るのだろう。
それにしてもたい焼きの匂いといい、この部屋の様子といい、なんともリアルだ。
「なあ、おい」
聞えた声にふと顔を上げて
「あ、ごめん」
小さく謝り、たい焼きを渡そうとした。
するとその子どもは受け取ることもせずじーっと見てる。
「これとちゃうの?いらへん…?」
私の声に彼?彼女?は顔を上げ私の顔を見る。
「いいのか?」
ばあっと一瞬見せた笑顔が可愛かったから私も緊張が少しほぐれる。
「あー、うん。かまへんよ、あげる。
その代わり教えて?アンタ、名前は?それから主様って?」
両手でたい焼きを受け取って匂いを嗅いだり、つついたりしながらその子は答える。
「私は鬼で主様の式神見習い。
名前は雀躍(ジャクヤク)、頑張って主様にお仕えしてる」