愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「とてもよくお似合いですね。
えっと…、そう、貴女のお名前をまだ聞いてなかったかと・・・」

そう言われれば。
私もこの人の名前を知らない。

「私は桔梗(キキョウ)と呼ばれています。
ですが好きに呼んでくれて構いませんよ?」

「桔梗…?花ですか…?可愛いですね」
少し白くそして紫色の小さな可愛い花を思い浮かべる。

「ええ、それもありますけれど。
ここの主人は五芒星の桔梗印を使っているから、
いつの間にか私のことはそう呼ばれるように…」
桔梗さんは着物を広げながらこちらを向いて優しい声で答えた。

花…じゃないの?
私はたぶんその意味を聞いてもわからないだろうなとぼんやりと思いながら
「私は・・・藤原紫乃です」そう言った。

「え?」

さっきまでの笑顔が彼女から消えて少し驚いたような表情になり、着物を持っていた手が止まる。

「……?」
一瞬の沈黙。

「貴女のような高貴な方がなぜ・・・?」
高貴な方って?私が?

「ええっと、いやいや私、平々凡々などこにでもいる女子高生・・・なんですけど・・・」

うちフツーのサラリーマンのお父さんとパートで働くお母さん、大学生の兄と4人家族。
そんな、高貴とか縁遠いけど?
私のことを誰かと間違っているのだろうか。
< 25 / 212 >

この作品をシェア

pagetop