愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「いえ、申し訳ございません。
でもしっかりとお仕えさせていただきます。
紫乃様が元の場所に帰れるように主人が必ずなんとかしてくれますから。
まだ仕事は駆け出しですが…」

彼女は少し早口気味に私に言った。

「はあ・・・」

仕事?
桔梗さんのご主人ってなんの仕事しているんだろう?

「…ありがとうございます」
よくわからないけど、とりあえずお礼を言っておく。
とにかくこれ以上、わけのわからない登場人物が増える前に夢から目が覚めてしまえばいいのに。

「あの…、私、いつ頃帰れるんでしょうか?」
夢なら早く醒めて欲しいけど、とそう思いながらも聞いてみる。

「それはちょっと…、今はまだよくわからなくて、申し訳ありません」

まあ、そっか、そうだよね。
帰る、帰らないっていうよりも夢が覚める方が早いか。
夢をみていると思ったらあまり恐怖心はない。
我ながら単純。

そんなことを思いながらふと視線を部屋の隅にやると楽器のようなものが目についた。
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