愛しの君がもうすぐここにやってくる。
お腹の底から広がってくような、
でも、なんて言うんだろ、
幽玄で、繊細で、
すごい…。
なんて表現したらいいんだろう。

私は初めて聞くその音に一気に虜になってしまった。

「こんな音、初めて」

今度は自分で上から下へ弦を弾きおろすとさっきと同じようにお腹の底から再び響いてくる。
すごい、なんかすごい。
語彙力が貧素な私はすごいって言葉しか出てこない。
ギターとは違う、音に深みがあって、ずっと耳に残る感じ。

「お気に召しましたか?」

「はい!」
私は桔梗さんに満面の笑みで答えた。

「そうですか…。でも…」

桔梗さんは私とは違って困ったような顔をして手を頬に当てながら首をかしげた。
「どちらかと言えば嗜みとして女性が楽器を演奏すると言えば箏が一般的なのですが・・・。
琵琶を弾く女性はいることはいるのですが、あまり好まれなかったりも・・・」

「なんだ、そんなことですか?
私、別にそういうの、気にしないですよ」
だって世間がどう言ったって私が気に入ったんだから。
好きなものを好きだって、何も悪いことじゃない。
< 28 / 212 >

この作品をシェア

pagetop