愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「そうなんですか・・・」
じゃあ、独身の安倍時親様って人に、桔梗さんがお手伝いで働いているってこと?
主人、主人って言うからてっきり。
この時代の社会とか生活習慣とか男女関係とか、ややこしくてよくわからない。

そしてなぜか私はこの御簾の向こう側にいる安倍時親がどんな姿をしているのか確かめたい、そんな衝動にかられる。
そっと私は御簾に手を掛ける。

桔梗さんはそんな私の仕草だけで気付いたのか
「紫乃様、ここにいてください」
そう言って慌てて私の手を止める。

「え?どうして?」
不思議そうな顔をしていると、
「紫乃様のような妙齢の姫君はそんなことしてはいけません・・・」
私は御簾を上げて向こう側に行くことを止められ、ただひざをついたまま首を傾げるだけだった。

「・・・思っていたよりもお元気そうですね。
ここに運んできた時は死んでいるかと思ったのですが。
そうだったらどう処分しようかと」
御簾の向こうから声がする。

ちょ、なにそれ、さっきから嫌味な感じ。
御簾の向こう側からだとドア越しに話しているように感じてしまって余計に嫌な気分になる。

「そ、・・・そんな言い方はないんじゃないですか?」
ついムッとして言い返してしまう。

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