愛しの君がもうすぐここにやってくる。
すると彼は私の言葉にため息をついた。
「確か…女性を助けたように思ったのですが…」
本当にさっきからこのひとの言い方、棘がある。

我慢できなくなった私はひざをついた体勢から立ち上がり裾を引きずりながら御簾のところまで行く。

「紫乃様?!」

桔梗さんが呼び止めたけれど私の耳にはその声は入ってこなかった。
そして御簾を上げながら大きな声で言った。

「初対面の人にさっきから嫌味な言い方、失礼じゃないですか?
御簾があってもちゃんとこっち向いて顔を合わせて話したらどうなんです?」

「あっ、紫乃様っ!!」
再び桔梗さんの私を止める声。
でももう遅く、呼ばれた時には私の目の前に彼の姿があり、そのうえ目が合ってしまった。

「・・・・・・!」

御簾の向こうにいたのは男性に対して言うのは失礼かもしれないけど。
想像していた古典や日本史の教科書に描かれている男性像とはかけ離れて、ハッとするほどにとても整った顔立ち、そして冷たいほどに、でもゆるやかで美しい瞳。
そう、その表情は無表情であったせいか冷たそうな印象をもったけれど。

でも・・・
なんだろう、わからない感覚、いつもどこかで身近で感じていたような温かさを感じた。
その感じる温かさからこのひとは悪いひとじゃない、そう思った。
そして彼の美しさに圧倒されそのまま動けなくなる。


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