愛しの君がもうすぐここにやってくる。
桔梗さんはゆっくりと立ち上がり、
「時親様の食事の用意をしなくてはいけないので・・・」
そう言い残し、御簾の向こうに行こうとする。

「あ、ちょっと待ってください!私・・・」

「紫乃様はそこでそのまま、お過ごしください。
終わりましたらまた戻りますので・・・」

さっきもそうだったけど、どうして桔梗さんはよくて私はダメなの?
どうして御簾の向こうに行っちゃダメなの?
自由がなくて窮屈、規制が多すぎる。

「今日は天文密奏で出かけられていたのですね・・・」

「月の輝きが最近、変だったこともあったし・・・」

ふたりの声が御簾の向こうに聞こえる。

なんですか?それ?
ぼんやりと見えるふたりの影はだんだんと消えてなくなっていく。

私、ずっとここから出られないのだろうか。
閉じ込められているみたい。

それにしてもあのひと。
時親様って言ったっけ?
一体、何者なんだろう?

まあ、いいや、
当分、どうせ眠って起きたらこの夢も覚めるから。
夢の中の出来事なんてどうでもいいや。
さっさと寝てしまおう。

そしてそう、目が覚めたら・・・。

< 37 / 212 >

この作品をシェア

pagetop