愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「おい」
目の前の雀躍が怒った顔をして私に言った。

「おい、聞いてんのか!」
耳元で聞えたその声に我に返る。

「あ、そんなことない、うん、聞いてるから」
私は焦って両手を振りながら言ってみたけど。

「・・・え、泣いてんのか?」
雀躍は大きな瞳をこちらに向けてのぞき込むように私に聞いた。

気付かれたくなくて、
「違う、違うって・・・」
でもそう言う私の声は空の中に消え入りそうで。
目頭が熱くなって雀躍の顔もぼやけてきて。

「・・・ごめん」
「・・・ごめん」
私たちは同時に言った。
そして思わず顔を合わせて、え?って表情になって、ふっと笑う。

やっぱり夢だろうが現実だろうが、時親様が非現実的な仕事をしているのと同じくらい、いやそれ以上に現時点の今の私の状態のほうがどう考えても非現実的だ。
あり得ないことが私に起こっているのには間違いない。

「まあ、いいや、じゃあな」
そう言って雀躍はどこかへ行こうとした。

「あ、ちょっと・・・」
私はまだ教えて欲しいことがたくさんあったから手を伸ばし慌てて止めようとしたけれど、彼は私の呼び止めに気づくこともなくどこかへ消えてしまった。

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