愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「あっ、そ、それより・・・」
私は琵琶をなでながら、脳裏によぎる彼の姿を打ち消すように言った。

「はい?」

「あ、いえ・・・、
じっとしていてもしばらく元の世界に帰れることもないし、嫌なことばかり考えるから・・・。
だから、それならこれでなにか曲が弾けるようになったら少しは気も紛れるかなあ、なんて」

それにいつも彼女に曲になってない音を鳴らすだけの音を聞かれているんだろうなと思うとちょっと恥ずかしい。
今更だけど。

「紫乃様・・・琵琶がよっぽどお気に召したのですね」

「はい、でも勝手に触っているだけじゃ、やっぱ難しいですね。
全然曲らしい感じにもならないし」
やっぱり教えてくれる人とかいないと弾くのも難しいよね・・・。

「ああ、そうですね・・・、そんなに弾きたいのでしたら・・・。
私が教えてもいいのですが・・・」

「え!桔梗さん、琵琶ができるんですか?」
大きく目を見開いて言う私に桔梗さんはにっこりうなずく。

なんだ、こんな身近に琵琶のできる人がいるのなら私、教えてもらいたい。
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