愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「私に教えてください!」
「でも・・・」
そう言って少し彼女の表情が曇り、一息ついて続けた。
「ただ時親様がなんとおっしゃるか・・・」
「そんなことですか。
だったら私からやりたいからって頼んでみるし。
そんな、悪いことするんじゃないですから」
私は自信をもって胸をポンと叩く。
ちょっと楽器やりたいっていうだけなんだしなんの問題もないし大丈夫だろう。
これまで何の楽しみもなく、ただ早く元の時代に帰ることだけを考えてきたけれど、ここに来て琵琶を教えてもらえるという楽しみができるのなら、きっと気持ちも明るくなれる。
でも桔梗さんはあまり嬉しそうな表情をしていない。
彼に怒られるかもしれないって思っているのかもしれない。
「あー、大丈夫ですよ、責任は全部私が取りますから。
桔梗さんは何も心配しなくていいです」
琵琶を弾いて楽しむことができるかもしれない。
そう思うと同時に私は彼女が「やっぱり止める」と言い出さないか少し心配にもなる。
「紫乃様・・・」
私は否定されるかもしれないそう思い、焦る気持ちを抑えながら外の庭を指さし、話を逸らす。
「…え、と、外の紅枝垂れ桜、きれいですね。
桔梗さんはよく外に出たりするんですか?」
目を凝らすようにしてここから見てもきれいな景色ははっきりと見ることはできない。