愛しの君がもうすぐここにやってくる。

「そうですね・・・、それでも季節はそれなりに感じたり、楽しめたりはできていますし。
そして御簾の向こうに女性がいるのは自分を美しく見せるためでしょうか・・・。
地位のある男性に美しく磨いた自分を常に意識して見つけていただくという目的もありますから」

「見つけてもらうって待つだけ?
女性から男性のところへ行くことってないんですか?」

私の言葉に桔梗さんは目を丸くして驚いた。

「そんなこと・・・。
この時代ではあり得ないことです。
女性が地位のある男性と結婚するのは家を栄えさせるためなのですよ」

「暗い部屋でじっと家のために?
自分の意思は?」
きっと私、この時代で生まれ育っていたら生きていけなかったかもしれない、
なんて思いながら。

「自分の意思・・・、どうなんでしょうね・・・。
けれど紫乃様も理解されているのではないでしょうか。
紫乃様の・・・藤原一族は中でも娘を天皇の后として送ったりすることで、現に摂政、関白を世襲していますから、ね」

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