愛しの君がもうすぐここにやってくる。

ああ、そっか、そうなんだ、そういうことか。
私がお姫様って言われる所以なのはそこなのか。
ここではそういうことがあるかもしれないけれど、私のもといた場所ではあり得ない話だ。

「そんなの・・・、そんな難しいことはわからないけれど。
自由がないのは嫌です」

「ふふ、そうかもしれませんね。
紫乃様は明るくて自分の思いに正直な方だから。
元おられた場所のことは私にはわかりませんが・・・、
きっと紫乃様が今まで過ごされてきた場所は紫乃様にとってよいところなのでしょうね」

この時代だとたぶん私のような考え方だと否定されまくりだろう。
一緒にいてくれるひとが桔梗さんでよかった、そう思う。

時親様と桔梗さんは私がどこかのお姫様だと思っている理由はわかったけれど。
本当はそうではないこと、きちんと伝えた方がいいのだろうか。
でも別に嘘ついているわけじゃない。
ふたりがそう思い込んでいるだけ。
だったらなにも言う必要はないんじゃないだろうか。

「違う」と言ってしまうことで、ふたりが私から離れていってしまうかもしれない、そう思ったらとても心細い。
どうしても言えなくて、変な言い逃れを考えてしまう。

< 52 / 212 >

この作品をシェア

pagetop