愛しの君がもうすぐここにやってくる。

その時、ざっと一瞬大きな風が吹くと同時に、

「え・・・?
今の、だれ・・・?」

聞える声に戸惑っていると十二単姿のお姫さま・・・の後ろ姿・・・が見えたような。

「・・・・・・!」

ちょ、これはヤバいかもしれない、早くこの桜の木から離れないと!
咄嗟にそう思ったけれど身体が・・・、動かない・・・。

どうしよう、このままじゃ・・・、

「あ・・・!」
どうしよう、だれか呼ぼうにも声も出ない。

しっかり意識をもっていないと、自分がどこかに飛んでいってしまいそう。
違う、私がこの紅枝垂れ桜の木に吸い込まれてしまう。

ーーでも。
苦しくないのならそれでもいいかな・・・。

離れなければという自分と、このままでもいいかという自分。
アンビバレンスな状態になっている。
そして理由がわらかない涙が止まることなくあふれてくる。
この悲しい感情ってなんだろう。

見えた女性がこちらを振り向いたような。
すごくきれいな人。
なにか言いたげに静かに立っている。
彼女は人間じゃないのは、確かだ。

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