愛しの君がもうすぐここにやってくる。

そんなぼんやりとした意識の中、私の手首を力強く掴む感覚があった。
この感覚って・・・。
ああ、そうだ、私がここに来るときに掴まれたものと同じような。

「・・・を・・・るんだ・・・!」

「・・・!?」

同時に聞き覚えのある誰かの声が遠くに聞こえる。
私を呼んでる・・・?

「紫・・・!!」

聞えたその声に私はハッとする。
返事をしなければ、聞えた声になにか応えなければ。
私は掴まれている腕を見つめながら、ぼんやりしている意識をなんとか奮い立たせる。

私を助けようとしている腕を掴む手に力が入り、私もその方へ向かおうとするのにどうしてだろう、身体が動かない。

ここは・・・怖いけど、でもなぜかやさしい場所。
そしてさっきからずっと悲しい表情のお姫様が見える。
私が離れようとすると一層悲しそうな表情を見せる。
やさしくてきれいなところだけど、でも。
悲しい。

「紫・・・乃・・・!!」
今度ははっきりと私を呼ぶ声。
・・・時親様?

ああ、そうか、やっぱり最初に私が変な空間に迷い込んだとき、私の手を掴んだのは彼だったんだ・・・。

そう認識した瞬間私は気を失った。

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