愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「・・・それから、琵琶をどうしてもやりたいなら・・・」
あんなにさっきはダメだって言っていたのに・・・。
少し上げた御簾の隙間から彼の姿をはっきりと見ることができるはずなのに、見ることができない。
時親様は言葉を続けた。
「以前にもお話をしましたが、女性としての嗜みもしっかりと身につけてもらいましょうか」
「女性としての嗜み・・・?」
なんだか嫌な予感がして眉をひそめる。
「手習い、和歌、楽器・・・、そう、その楽器は琵琶で構わない、やる以上はすべてしっかりと取り組んでいただきましょう」
「え?そんなに!?」
びっくりして顔をあげて言い返す私に彼はふっと笑う。
・・・あ、笑った・・・。
無表情なひとだと思っていたから、ちょっとびっくりした。
さっき私がひとりぼっちだって言って、それからこうして御簾を少し上げて、少し姿が確認できるくらいの近さで話をしてくれている。
これはきっと私が寂しい想いをしないようにとの配慮してくれているのだろう。
彼は、冷たいと思っていたけれど、ほんとうはやさしいひとなのかもしれない。