愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「なんだか賑やかですね」
この声!時親様・・・?
最近、忙しくていつ帰るかわからないくらいじゃなかったの?
ヤバい、いや、なにが?わかんない。心の準備?ってやつ?
別に勉強サボってることもないし、やましいこともないし。
「あ、主様・・・」雀躍がぱあっと笑顔になり、彼の方を向いた。
少し上げた御簾の向こう側に雀躍の隣に座る彼の姿が見えた。
狩衣姿ってことは仕事で出かけてたっていうのではないのかな。
あの日以来、時親様は御簾を少し上げて過ごすことを許してくれている。
さっきの雀躍の話といい、こうして私を思ってくれているところ、
やっぱりこのひとはやさしいひとなんだと改めて理解する。
・・・嫌だな。
「雀躍、また来たのですね。
ここには来ないようにといつも言っているのに・・・」
「だって・・・」そういう言い方をするところ、本当に人間の子どもと同じ。
思わず笑ってしまう。
「なんだよぉ、もう帰る」
そう言って雀躍はどこかへ消えてしまった。
「困ったものですね」
ため息交じりにそう言って時親様は雀躍が消えた方向を見つめる。
ダメだな、ふたりになるとなんか緊張する。
「紫乃はその後いかがですか、約束したこと、頑張っておられますか?」
あー、その話ね。
私は琵琶も同時進行で教えてくれると思っていたから。
でも嗜み的なことがある程度進むまで琵琶はお預けって言われて、こっちはもう必死になっているんだから・・・。