愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「・・・だから、毎日もう必死でやっていますよ」
彼に聞えるか聞えないくらいの小さな声で言う。
「なんとおっしゃいましたか?」
「だーかーらー、やってますって!」
うわ、私の言い方、なんか可愛くない。
言ったあとで少し後悔する。
「どうかしましたか?」
「いえ、・・・なんでもないです」
時親様、なんかもう会いたいけれど、会いたくない。
「ところで紫乃、報告があるのですが」
「報告?」
「ええ、貴女がもとの世界に帰れるよう、方法を模索していると以前もお話していましたが、もうすぐ具体的にお話することができるかと思います」
「帰る」そう言われて。
そう、よい知らせ・・・。
なぜだろう、望んでいることなのに、いちばん望んでいるはずなのに。
胸の奥がチリッと傷んだ。
「あ、・・・ありがとうございます」
頭をさげるように、表情を見られないように、顔を伏せてそういうだけで精一杯。
時親様はきっと私が喜ぶと思って話したのだろう。
でも今の私の表情ってどんなだろう。
自分でもわからない。
顔を伏せたまま彼の方を見ると彼の着ている狩衣の鮮やかな緑が目に入る。
最近は宮中に参内することが多いって言っていたのに、狩衣姿ということは今日もきっと仕事とは別で私が帰れるための手立てを探してくれていたのだろうか。
なにを考えながら、なにを思いながら、探していたのだろう。
そして彼のこともわからない。
・・・複雑な感情に襲われる。