愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「時親様の場合、仕事柄ということもありますし、そういうものですよ。
でも今日は未の刻か申の刻には戻られます。
今は忙しくされていますが、今日は早く帰ると」
未?申?一体、何時のことなんだ?
とりあえず今日は早く帰ってくるってことか。
まだ数えるくらいしか会っていないのに、日増しに彼の存在が私の中で大きくなっていく。
今いないって言われてほっとしている自分と早く帰ってくると言われて嬉しく思う自分。
これってやっぱり惹かれていっているってことなのだろうか。
考えずとも。
そういうことか。
どうして自分の気持ちの問題なのに自分で思い通りにできないのだろう。
私が存在するはずのない時代なのに、この時代に生きる人に惹かれてなんの意味があるのか。
私の時親様への想いは意味を成すものなのだろうか。
そんなの意味がないってことはわかっているのに。
どうかこれ以上、彼のことが気にならないように。
無意識にため息が出てしまう。
だいたい時親様はどうして私をここに連れ帰ってきたのだろう。
彼の考えていることがわからない。
「紫乃様?
今日から琵琶を始めましょうか」
「え、あ、本当ですか!
嬉しいです、ありがとうございます」
そういえば、よく見る夢の中に出てくる2人は恋人同士なのだろうか、ふと思った。