愛しの君がもうすぐここにやってくる。

「そうですね、そこでは撥を叩くようにしてみてください」

「あ、ほんとだ、音が変わった・・・」

桔梗さんは丁寧に私に琵琶の弾き方を教えてくれる。
私も教えてもらう度にいろいろな音を出すことができてとても楽しい。

「それにしても琵琶を始められたばかりですのに素晴らしい上達ぶりですね」
桔梗さんが少し驚いた表情を見せながら私に言った。
お世辞であっても嬉しい。
楽しいことは集中してできるから時間が経つのもあっと言う間。

私は上達したって言ってもらえたことに対して時親様にちょっと自慢したくなった。

「そういえば時親様は?
早くに帰るんじゃなかったんですか?
もう夕方になるけど?」
外に目を向けると少し陽が傾きかけているのに、まだ帰ってくる様子はないみたい。

「そうですね、早く戻られるはずだったのですが、連絡があってまた宮中に参内する予定があったようで・・・」
桔梗さんは琵琶を片付けながら答える。

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