愛しの君がもうすぐここにやってくる。

そんなことを考えながらうとうとする。

あれは・・・時親様の声?

遠くで時親様と桔梗さんの話し声が聞える。

私はそのまま寝ているふりをする。


「そう、紫乃の琵琶は?
次の満月の夜に管弦の催しをしようかと思っているのだが・・・」

そんな時親様の言葉に桔梗さんが、少し驚いたような声で答えた。
「まあ突然ですね。
紫乃様は・・・、ええ、短い間にほとんどの基礎は覚えてしまわれました。
もうびっくりするくらいに上手になられています」

「そうか・・・」

「それにしても管弦の催しなんて賑やかになりますね、このお屋敷でそういうことって初めてのことじゃないでしょうか」

「普段から私の周りはよからぬことが多くあるから、あまり目立ったことはしたくないのだが・・・。
しかし思っていたよりも紫乃の噂が広まっているから」

なに?
その私の噂って?ここから出たこともないのになんで私のことが噂になるの。

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