政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「それならいいけど。日和は何でも無理するだろ」
「そんなことないよ。私のことあまり知らないでしょ?」
「知ってるよ」
「…え?」

まだ結婚して数か月しか経過していない。それなのに楓君は自信あり気にそう言った。まるで幼いころから知っているとでもいうように。

「なんていうのは嘘だけど。でももう一緒に住んでそれなりに経つし知ってるよ、知らないこともあるけどこれから長い年月時間を共にして日和のことを知りたいと思ってる」
「私もだよ」

「あのさ、」
「うん?」
「さっきのこと、怒ってないの?」
「…さっき?」

 聞き返したくせに、“さっきのこと”は既に頭の中で映像として蘇っていた。

キョロキョロと視点を動かして動揺する私とは対照的に楓君は抑えた声で続けた。

「キスして、日和に触れた」
「…」
「本当に悪いとは思ってる。怖がらせたならば、尚更申し訳ないと思ってる。でも…―」

 楓君はじっと私を見つめ逃がさない。逸らしたいはずの視線を逸らすことが出来なかった。

一瞬時が止まったように感じた。

「俺、そろそろ我慢できない」
「…っ」
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