政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「あの!何かあるんでしょうか?夫は…何か、」
「いえ、別に何もないですよ。ただ、」
清川さんは私が咄嗟に掴んだ手に自分のそれを重ねると笑みを消していった。
「私はそれなりに楓さんと関係はありますよ」
「え…」
いつの間にか副社長から楓さん、と名前呼びに変わっていることも気にならないほどに私は混乱していた。
「関係?それは、あの、どういう…」
「結婚する前ですので。安心してください。キスなんかは…それなりに」
「え…」
「ただ、私はまだ好きです。政略結婚など家の事情はあるでしょうが…好きな人と幸せになることが一番大切だと思います」
では、と言って彼女は立ち去った。彼女を掴んでいた手が重力に従うように落ちていく。
清川さんは楓君と付き合っていたのだろうか。そうとしか思えなかった。
既にタクシーがホテル前に到着したようだ。ホテルマンが私に声を掛けに来た。
呆然と立ち尽くす私はそのあとどうやって帰宅したのか記憶がない。