政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
――…


「おかえりなさい」

 楓君が帰宅した。私はなるべく普段通りに彼に接している。ホテルで清川さんから聞いたことは黙っているつもりだ。過去のことを訊かれていい気をする男性はいないだろうし、今何もないのならばそれでいい。何もないのならば…―。

「ただいま。今週親来るんだっけ」
「そうだね。午後に来るって言ってたけど…」
「ふぅん、何しに来るんだろ」

 自分の部屋に行って着替えてくるとすぐに今週末の話になる。
楓君の両親はとてもいい人だ。ただ、やはり私の実家とは違い、規模の違う会社を経営しているということもあって考え方が少し一般人とは違う。

「久しぶりに会いたかったんじゃないかな?」
「結構会ってるけど」
「そっか…」

 素っ気ない語調に私はダイニングテーブルに並べてある料理を並べる手の動きを早める。

「あ、そうだ。沖縄の件なんだけど」

 楓君が椅子を引いて座る。
私も彼に続くようにして椅子に腰かけた。今日のメイン料理は煮込みハンバーグだ。

「その日、日和のこと抱いていいってこと?」
「…っ」
「直接的過ぎるけど、一応ちゃんと聞いておこうと思って。相違があれば困るし」
「あ、あ…うん、そ、そうだね!そういうことで…うん、よろしく」

 たどたどしい口調に楓君がクスリと笑った。
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