政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
♢♢♢


「もう少しでお義父さんとお義母さんが来るね!コーヒーも準備オッケーだし」
「いいんだよ、そんなに気遣わないで」
「でも…せっかく来てくれるんだから」
「いいよ、適当で。負担にならないようにして」

 楓君は黒いタートルネックを着ていた。スーツ姿は見慣れているが私服姿はそうでもないので、そのたびにキュンとしていることは内緒だ。
 手足が長く顔も小さいから何を着ても様になる彼がモテるのは当たり前だ。清川さんがまだ楓君のことが好きなのは毎日顔を合わせていれば当然だ。


 インターホンがリビングに響く。私はエプロンを外した。ソワソワしながら玄関先に向かう。

「お邪魔します。日和さん、今日はごめんなさいね、急に」
「いえいえ」

 玄関ドアを開けると、ベージュのコートを羽織ったお義母さんと真っ黒いAラインのコートを羽織ったお義父さんがいた。「楓は?」とすぐにお義父さんが視線を私の背後に移す。

「リビングにいますよ」
「そうか、すまないね。せっかくの休日なのに」
「いえいえ」

 二人をリビングルームに通すと楓君の両親は「いい家だね」と声をそろえた。

「この間会ったばかりなのに、何かあったの?」
「別にいいじゃない。たまに遊びに来たって」
「いいけど」
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