政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
この日の夕食は出前を取ることになり夕食の準備をしなかった罪悪感もあったが疲れの方がそれを上回っていたから助かった。
お風呂に入り終えて舞衣子からもらった“例の本”を自分の部屋で読もうと思っていると松堂君のメッセージに返事をしていないことを思い出す。
ちょうどベッドの上に体を預けていた。初めての仕事で気疲れもあったのだろう、心身ともに疲れ切っていた。上半身を起こすのもやっとだ。
トントンとドアをノックする音が聞こえる。はい、と声を出した。
楓君が「ホットココア作ったから一緒に飲もう」と顔を出す。
「ありがとう!今行く」
声を弾ませてそういうと彼も顔を綻ばせる。
スリッパをはいて自分の部屋を出ると廊下には私を待つ楓君がいた。
一緒にリビングまで行くとテーブルには白い湯気を立てる美味しそうなホットココアの入っているマグカップが二つ置いてあった。
いただきます、と言ってそれを手にするとゆっくりと口元に運んだ。
甘くてほんの少し苦みの感じるココアは心も体も温めていく。
「そうだ、実は松堂君から連絡が来ていて」
「…松堂?」
柔らかい雰囲気が一気にぴりついたのは気のせいではない。
彼の眉間が歪むのを見て次の声が出てこない。今すべき話ではなかったのかもしれないと思ったが時すでに遅し。