政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
清川さんのことが好きとか彼女と付き合いたいとかそういったことを言われるのでは、と一瞬で嫌なことが脳裏に浮かぶ。しかし、楓君は淡々とした口調で続けた。

「年内で秘書はやめてもらうことになった」
「え…」
「それから、年内で秘書が変わるとはいえまだ清川が秘書だから日和はなるべく関わらないようにして」
「どうして?…急に秘書が変わるって何かあったの?」
「いや、別に何かあったわけじゃないけど」
「清川さんは優秀なんだよね?いいの?ずっと楓君の秘書だったんだよね」
「優秀な秘書なんてたくさんいるよ。彼女でなければならない理由はない。何かあれば俺に言って」
「うん…」

 突然の秘書交代の話は私の頭の中を混乱させた。
清川さんが自ら辞めたいと申し出たのだろうか。それとも楓君から?
どちらにせよ、何かがあったと考えるのが自然だ。彼女は過去に楓君とキスなどをしたと発言していた。
つまり、付き合っていたとか体の関係があったとかそういう類の話なのだろう。

 これ以上彼女の人事に関わることは聞くことは出来なかったし、彼も話そうとはしなかった。
 ハーブティーの入ったマグカップを手に取って口に含みながら心を落ち着かせていると更に楓君は言葉を紡いでいく。

「それから…」

 彼もハーブティーを一口飲むと短い息を吐いた。
言葉を選ぶように、慎重に彼は続けた。
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