政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
――…


 お風呂にも入り終えた私はすっかり眠くなってきていて時計を見ると22時を過ぎていた。
このところ時間が過ぎるのが早いと感じるのは慣れない環境に身を置いているからだろうか。
とはいっても、自分の部屋もあるしプライベートは守られている。何不自由なく暮らせているのも、楓君のお陰なのだ。

 欠伸をしながらパジャマの上からカーディガンを羽織り、リビングに移動するとスタスタとスリッパが床の上を歩く音を響かせてソファに座る。
 眠る前に普段からハーブティーを飲むようにしていた。季節は九月ともうじき冬が訪れる。
寒さが苦手だった私は体を冷やさないように年中気を付けている。

 お気に入りのマグカップを持ちながら一息ついていると、楓君の部屋のドアが開く音がした。

 既に寝たと思ったのに、ドキッとして勢いよくそれをテーブルに置く。
その勢いが良すぎたのか、そこまで減っていない中身が私の動きに合わせるように中からこぼれてしまった。

「あつ…っ」

手とパジャマにかかってしまい、あたふたしているとすぐに楓君が隣に来た。

「何してんだよ。早く冷やして」
「は、はい…」
「早く」

そう言うと、彼は私の手を引きキッチンの蛇口レバーを勢いよく上げると私の赤くなった患部を冷やす。
ジンジンと痛むがそこまでひどいやけどではないし、それにここまで心配してもらわなくてもいいのにまるで子供を心配する親のような対応だった。
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