政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「じゃあ入ってくる」

そういって今度は楓君がお風呂に向かう。私はそれを目で追いながら考えた。

(あれ?合図はまだないよね…?)

彼が浴室へ向かったと同時に立ちあがり、スマートフォンを手にした。
セックスをするタイミングをネットを駆使して調べるが…―。

「ううん…」

調べれば調べるほどに脳内がパンクしそうになる。
まるで小学生にチェバの定理を説明しているように、意味不明な用語と説明の連続に思わず顔を顰める。
“彼に身を任せればOK”などと書かれてあるがその”身の任せ方”を知りたいのに全く参考にならなくて検索することを諦めた。

 ストレートにセックスをしようと言われてする流れになった方がいい。そのくらい分かりやすくないと私はどうしていいのかわからない。
始まれば、あとは舞衣子からもらった本の通りに進めたらいい。
少しすると楓君が戻ってくる。

 何も考えずに視線を彼に向けて後悔した。

「あ…」

 バスローブ姿の彼と目が合い固まってしまう。次に何て声を掛けるべきか口をパクパクさせながら考えるが口が開くだけで声まで出てこない。
 バスローブ姿の彼があまりにも艶麗でそれでいてお互いの姿も相俟ってセックスのことしか考えらえなくなった私は急に変態になったのだと確信した。

「どうかした?そんなに目を丸くして」
「ううん…」

 何とか振り絞った声は掠れている。あんなにも水で口内を潤したはずなのに。

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