政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】

 寝室に二人で移動するとそれぞれがベッドに入る。
セックスのことしか考えられなくなっていたくせに、今日はしないとわかると途端睡魔が襲ってきた。

 明日は何を食べようとか思いながら天井を眺めて瞼を閉じようと目を細めると…―

「えっ…」
「眠いんだ?」

いつの間にか体を預けていたスプリングベッドが軋む音が耳朶を打つ。

 顔を横に向けると彼が隣にきていた。

「調子はどうですか?」
「ちょ、調子…?」

 既に寝ようとしていたタイミングでどうしてか彼が私のベッドに入ってくる。自然に眉間に皺が寄っていたようで楓君はそこに指をそっと当てる。そしていつの間にか体勢を変えて私に覆いかぶさる。

少し触れられただけでビクッと体を揺らしていた。

「…眠くないよ…」

 これが合図なのかもしれないと思った。ここを逃してはいけないとも思った。焦燥感と緊張と高鳴る胸の鼓動を抑えるように酸素を吸い込むが上手く出来ない。

「急に顔が赤くなったけど」
「あ…」

 彼の指がすっと眉間から頬、そして唇に移動した。

あれほど“予習”をしたはずだったのに徹夜して詰め込んだ解答用紙を前にしたように思考が停止した。万全だと思っていたが、いざ実践となると予習の甘さが露呈した。

「どうする?しない?」
「…」
「俺は抱きたい」

目をしばたたき、ごくりと唾を飲み込むと

「私も…したい」

そう答えた。
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