政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
触れるだけのキスではなくて生き物のように口内を動く舌に自分のそれを絡めるだけで精一杯だった。
歯列をなぞるように舌が這うと口の端から唾液が零れた。

「はぁ…っ…ん、」
「苦しい?」

 既に全身に力が入らなくなっている。力なく首を横に振るのがやっとだ。
照明を消してほしいのに、消す素振りはなかった。

 体から彼の重みが消える。一旦彼が上半身を起こし、膝立ちして私を見下ろす。
いつもの彼のはずが、どうしてか今日は違う人に見える。こういうシチュエーションだからなのかどうかはわからない。バスローブを脱ぎ捨てた彼の上半身に目を奪われた。

 普段は手足が長く細いから分からなかったが、意外にも筋肉質でその体を見ただけで下半身が疼くのはやはり自分は変態になったのだと思った。

「優しくするし嫌だったり痛かったらちゃんと言って。今のうちに言っておく」
「うん…あの、照明を…」
「あぁ、消したい?」
「できれば…だって、恥ずかしいから」
「俺はこのままがいい。日和の全部見たいから」

 口角を上げた彼は再度私に覆いかぶさってきた。
肘をついて髪を撫でる楓君は私の緊張を解こうとしてくれているようだ。
彼から見ても今の自分は相当緊張しているのだとわかった。ギュッと目を閉じる。
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