政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「もう…っ…」
楓君の胸元に手を当て、懇願するように何とか声を出す。
弱い箇所を何度も何度も音を立ていやらしく耳をせめられる。
「嫌だった?」
虚ろな目が楓君を映すと嗜虐性を孕んだ双眸で見つめ返された。
その質問は狡い。嫌ではないのだから…―。
そうではなくて、と言いたいのに声が出ない。大きく胸を揺らし酸素を吸い込むのがやっとだからだ。
「無言ってことは嫌じゃないんだろ」
彼はそう言うと今度はスリップ越しに私の体を大きな手でなぞる。
武骨な男を感じるその指が腰から胸にかけて私の反応を楽しむように何度も往復する。
目尻に溜まっていた涙が零れる。それは意図せず目元を濡らしていた。
悲しいわけではない、恥ずかしくて泣いているのではない。
しかしじゃあ何故泣いているのかと問われれば、その理由が自分自身でもわからないでいた。
「日和、綺麗だよ」
小刻みに頷くと、楓君の手が私のスリップを首元まで上げる。
一気に外気に触れる面積が広くなる。下着姿を彼に見られている、その事実だけで眩暈がする。
ベッドの軋む音がすると、楓君が体勢を変えて私に覆いかぶさる。