政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「あのさ、提案なんだけど」
「何でしょう」
「俺たち結婚したばっかりでお互いをよく知らないだろ」
「そうですね。確かに」
「距離を縮めたいと俺は思ってる。そのためにまずは敬語やめてほしいんだけど」
「え…」
珍しく彼の瞳が鋭く光ったのを確認した。脈が早くなるのを感じる。
戸惑いの様子を彼に伝えるように視線をウロウロさせた。
敬語をやめるのは私にとって難題である。彼は最初から敬語ではなかった。年上というのもあり自然にそれが出来ただろう。
「それは…努力します」
「努力って?どうやって?」
「それは!気を付けるようにします」
「多分それだといつまでも敬語だと思う」
「…」
確かに楓君の言う通りだった。図星過ぎて言い返すことが出来ない。
すると、楓君は考えるように視線を宙に這わせ、顎に手を添えた。真横からそれを見ていた私はあまりにも横顔が綺麗すぎて息を呑む。
「じゃあ、こうしよう。敬語で話したらキスで」
「ええ?!」
「今朝も言ったけど、行ってきますのキスは夫婦として常識」
「そうなんでしょうか?!本当に?」
「本当」
「…でも、キスは…好きな、」
と言いかけてやめた。好きな人、ではなく好き同士と言いたかったからだ。
楓君は不満そうに顔を歪めた。
「夫婦だろ、俺たち」
「…そうです」
「政略結婚が嫌だったのかもしれないけど」
―もう日和は俺のものだってこと、忘れんなよ
そう言うと彼はすっと立ち上がり寝室へ戻ってしまった。