政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「おはようございます」
「おはようございます」

 挨拶をすると素っ気ない返事をした彼女は斎藤さんだ。山内さんによると5年以上このホテルの清掃をしているベテランだそうだ。30代くらいの細身の斎藤さんはどうしてか最初から私にきつい。
 
 山内さんと斎藤さんもあまり仲が良くないが、だからと言って斎藤さんが山内さんにきつく当たっている所や文句を言っている場面は見たことがない。

「西園寺さん。これから?」
「はい!そうです」
「ふぅん、いくらまだ入って数か月だからって他の人に比べて仕事が遅いのよ。ちゃんとして」
「…はい」
 
 彼女はそれだけ言うと、バン、と大きな音を立ててドアを閉めた。静まり返るスタッフルームで山内さんが舌打ちをした。

「いいよ、あんな人の言うこと聞かなくて」
「でも遅いのは確かなので」
「遅くないと思うけど?どーせ、家庭のイライラぶつけてんでしょ。ああいう人嫌いなの」
「…なるほど」
「じゃあ、頑張って。斎藤さんのことは無視よ、無視」

私は時計を確認しつつ、彼女に頭を下げてスタッフルームを後にした。
仕事は順調だ。人間関係以外は。
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