政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
楓君の隣を歩く清川さんとも目が合った。
彼女は薄く唇を開けて笑った。彼女は年内で秘書を離れる。
それなのにどうしてあんなに自信のある態度なのだろう。
やはり秘書から離れるのは彼女にとってメリットなのだろうか。
考えれば考えるほどに頭の中が混乱する。
「ねぇ、大丈夫?」
「…あぁ、ごめんなさい。大丈夫です」
「まだ風邪治ってないんじゃ…」
「そういうことでは…」
山内さんが眉間に皺を寄せ本気で心配してくれている。山内さんにこれ以上心配させることは出来ないと思い、無理やり笑顔を作った。
「私まだ10階の清掃あるから。体調悪いなら早く帰った方がいいよ」
「ありがとう」
山内さんはそう言うと清掃具を押しながら先に歩いていく。
清掃用の制服姿でも十分にスタイルの良さがわかる彼女の後ろ姿を見ながらひとりため息をついた。
「帰ろう…」
ポツリ、呟くと同時に背後から大きな音が聞こえた。