政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「そうなんだ…。そういえば、日和の実家がやってる宿に久しぶりに泊まりに行ったよ。やっぱりいいよね、温泉は」
「え?!いったの?嬉しい。ありがとう!」
しんみりとした雰囲気をすぐに変える松堂君のお陰で笑顔が戻った。
フォークを手にしてチョコレートケーキを口に運ぶと口内にふんわりとしたケーキの食間と甘さが広がり自然に美味しいと連呼していた。
「美味しい?よかった」
松堂君は私がケーキを食べてからチーズケーキを食べ始める。
「これ、日和も食べなよ」
「いいの…?」
「もちろん」
松堂君はケーキをフォークで一口大に切り分け、それを私の口元に移動した。何も考えずにそれをぱくっと口に含みたくなったのを咄嗟にやめた。
これは誰が見ても“あーん”だからだ。
松堂君とは小さな頃から一緒だったからこういうことも以前は普通にしていた。でも今は既婚者だから、拒否をした。
「自分で食べるから…ありがとう」
「そっか」
どこか寂しそうな瞳が揺れた。
松堂君はチーズケーキを半分以上私にくれた。そういうところも昔から変わらない。ケーキを食べ終わり、店内が混んできたこともあり私たちは店を出た。
明るかった外は既に日が沈みそうだった。