政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】

 少し不満そうに目を細めた彼だったが、すぐに私に腕を伸ばしてくる。

「どうぞ!!!!」

 大きな声を上げ、大きく手を広げた。
ぎゅうっと強く目を閉じているとぐわんと体が動いたのがわかった。と、同時に楓君の優しい香りがふんわりと私の体を包み込む。

 ゆっくりと目を開けるといつの間にかすっぽりと彼の胸の中に収まっていた。初めて男性と抱き合っていることに胸の高鳴りが止まらない。
それも、初恋の相手であり好きな相手に、だ。

「あの…いつまで…」
「もう少し。ていうか今も敬語禁止だから」
「あ、そうでし…じゃなくて。そうだね」

彼の抑えた声が耳朶を打つ。手足が長くスラっとしているから、細く見える彼だが、こうやって私を抱きしめると途端に大きく感じる。
数分そのまま抱き合い、ようやく彼が私を離してくれた時には既に全身真っ赤になっていた。

 それを見た楓君はクスっと笑い、
「茹で蛸じゃん」
といった。恥ずかしくて彼が家を出るまで目を合わせることが出来なかったし、そのせいで二度敬語を使ってしまったので、帰宅後二回のハグの約束をすることになった。



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