政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
日和のことを送って自宅に戻ったものの、何をしても日和のことばかり気になっていた。
だから少し時間が経過してから喫茶店近くまで行き、彼女を待っていた。
コートのポケットに手を突っ込んでいつになったら戻ってくるのだろうと苛立ちすら滲ませながら白い息を吐く。
と。
何か声がしたような気がしてふと喫茶店の入り口付近に目をやるとそこには日和が幼馴染に抱きしめられている状況で何も考えずに彼女たちに近づく。
日和たちはすぐに離れたが、彼女の顔がチラッと見えた。
酷く辛そうなその表情に俺の心臓まで痛む。
しかし俺の足は止まらない。何かを話しているのを遮った。
「楓君…」
口を半開きにして驚く彼女を捉えると手を引きそして強く抱きしめた。
「か、楓君?…」
「おかえり」
日和を抱きしめながらそう囁き、視線は日和の幼馴染に向いている。
相手も俺を見て目を丸くしていたが、徐々に切なげな顔をした。邪魔者は俺なのかもしれない。
だけど、日和だけは渡せない。
日和がもぞもぞと俺の腕の中で動く。松堂はふっと小さく笑って「じゃあ、日和幸せにね」と背を向けて帰っていく。
それを見てようやく腕の力を弱める。