政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「楓君…体冷たい気がするんだけどずっと外にいたの?」
「そんなことない。それより外は寒いから車に乗ろう」
「そう、だね」

 ぎこちない返事をする彼女は終始視線をキョロキョロさせ何かに動揺しているようだった。その何か、とはおそらく“幼馴染からの抱擁”しかないのだが。

 車内に乗り込んでからも日和の口数は少ない。
窓の外を眺めながら物思いに耽っているような感じがした。

 自宅に到着するといつものようにエプロンを付けてキッチンに立つ。時刻は夕飯を作る時間ではあるが休日だし急いで作る必要はない。

 夕食の際も日和の様子は明らかにおかしく話しかけてもすぐに会話が終了する。今日は松堂に告白でもされたのだろう。
それくらいは送り出す前から知っている。ただ日和はそれに応えるような女性ではない。

 既婚者だということをしっかり理解しているはずだから。でもそれが本心ではないこともまた、知っている。

「日和、今日は休日だし一緒に寝る日なんだけど」
午後10時を過ぎて水色のパジャマ姿の日和は自分の部屋にいこうとする。
深くソファに腰かけながら立ち上がる彼女に声を掛ける。
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