政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
帰り道、舞衣子と途中まで一緒に歩いていると
「あれ?日和?」
とどこからか私を呼ぶ声が聞こえ辺りを見渡した。
「日和だ。久しぶり」
「あ!松堂君!」
「誰?」
「紹介するね。家が近くて親同士が仲が良いから小学生のころからの友達?になるのかな。松堂真一君」
「初めまして。日和の親友の一宮舞衣子です」
「初めまして。松堂と言います」
ちょうど数メートル後方に松堂君が立っていた。私は手を軽く振った。
彼は駆け足で私たちのところまで来ると丁寧にあいさつをした。
彼は現在医者をしている。私よりも年上で楓君と同い年だと思う。彼の実家は総合病院を幾つも経営しており、それだけではなく皆医者一家というエリートだ。経済界でも彼の名前は有名だ。
「あ。じゃあ私タクシー拾って帰るから、ここで」
「うん、わかった!またね!」
舞衣子が去ってから、私と松堂君は話しながら歩き出した。
彼はちょうど久しぶりのお休みだといい、結構忙しい様子が窺える。
身長も180センチ以上はあるだろう、話す際に顔を上げるから首が疲れる。
それは楓君も同様なのだけれど…。
穏やかな雰囲気を纏った彼は、ウェーブのかかった髪から覗く柔らかい視線を私に落とした。
普段縁なし眼鏡をかけていた気がするが、今日はしていないようだった。
「結婚したって聞いてびっくりしたよ」
「あぁ、ごめんね。ちゃんと報告してなかったよね。政略結婚だからすごいスピードで決まってしまって…」
「それも驚いた。日和はそれでよかったの?」
「え?」
優しく、穏やかな口調だが、どこか棘のあるその言葉に私の足が止まった。
黒いパンプスの先が松堂君に向く。
木枯らしが勢いよく私たちの体を通り過ぎ、冷気が体温を下げるせいで思わず私は首を竦めた。