政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
彼も同様に私に体を向ける。

通り過ぎる人々がチラチラと松堂君を見る。
 コンパスのようにスラっと伸びた足に小さい顔、通り過ぎる他人とあきらかに違うスタイルと整った顔立ちは周囲の目を引くには十分すぎるようだ。

「良かった?うん…納得してるけど」
「そうなんだ。嫌じゃないの?いくら親の事情とはいえ」
「それは、」

嫌じゃないの、というその言葉にどう話せば伝わるのか考える。私は楓君のことが好きで、だけど楓君はそうじゃない。それを彼に伝えていいものなのか悩んでいると…―。

「日和」
「っ…」

 聞きなれた声が耳朶を打つと同時に私の体が揺れた。
背後から伸びてきた腕が私の体を引き寄せていた。パッと顔を上げると楓君がスーツ姿で背後に立っていた。

「か、か、楓君?!」
「えっと…もしかして日和の…」

 顔を引き攣らせ私と楓君を交互に見る松堂君に楓君は普段とは真逆の雰囲気を醸し出し言った。

「そうです。初めまして、日和の夫の西園寺楓と言います。申し訳ありませんが、彼女は既に私の妻です。それを理解した上で接してください」
「…そうですか。でも、政略結婚ですよね。それって普通の夫婦とは違うのではないですか?」

 バチバチと火花が見えそうなほど剣呑な雰囲気を出している。
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