政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
楓君と秘書の清川さんのことを考えると胸の奥がズキズキと痛む。
仕事だから仕方がないのに、嫉妬してモヤモヤしてしまう自分が嫌だった。
もっと広い心で、余裕のある妻になりたい。政略結婚ということを清川さんは知っているのだろうか?知っているのならば、尚更二人の間に愛が芽生えてもおかしくはない。
「はぁ、」
 この日は、鬱々として時間を過ごした。

♢♢♢

 翌日、楓君は早朝に帰宅した。
普段ならば、楓君の起床時間前には絶対に起きて朝食の準備をするのだけど、今日は彼がいないから目覚まし時計をセットしていなかった。
それが悪かった。
「わぁあああ!」
「何だよ、旦那が妻の部屋に入ったらダメなの?」

 目覚めると目の前に楓君の顔が私を覗き込んでいた。目が合うと同時に私は飛び起きた。

「ど、どうして?!今日はそのまま仕事に向かうんじゃ…」
「別にいいだろ、一回家に帰って来たって」
「いいけど…えっと、寝起きだからあまり見ないでほしい…」
顔を手で覆うと、楓君は私のベッドの縁に腰を下ろした。彼の座る部分が重みで沈む。
「別に気にしないよ、日和の寝顔は見たことがなかったから俺的にはラッキーだった」
「っ」
 楓君のいたずらな笑みに大きく胸が跳ねる。

狡いよ、どうして私ばかりこんなにもドキドキして緊張して、そして好きなのだろう。

「じゃあ、仕事に行くから日和はゆっくりしていて」
「わかった、いってらっしゃい」

楓君が立ち上がると同時に私は顔を上げた。会社へ向かう楓君に手を振った。この手が彼に届くことはあるのだろうか。
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