政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
顔が離れると同時に「か、えでくん…」と何とか彼の名前を呼ぶものの彼からの返事はなかった。
初めてのキスに全身が熱い。
これまでとは全く異なる胸の高鳴りをどうしたら抑えることが出来るのだろう。
「ごめん」
しかし、彼の口から出たのは、謝罪の言葉だった。
立ち上がる楓君に何と声を掛けていいのかわからずに呆然とその場から動けずにいた。
「…キス、しちゃった」
ソファの上に座る私は、震える手で唇に触れた。
緊張で手が震えていた。楓君の罪悪感を滲ませた瞳を思い出すと私まで切なくなる。
その日は、ほぼ二人の会話はなく、夕食時も気まずいままだった。
そのせいもあって私は夕食後、自分の部屋でワインを飲んだ。不安なことやストレスが溜まるとお酒の力を借りて忘れようとする人たちの気持ちがはじめてわかったような気がする。
「はぁ、」
何度もため息を溢しながら、私はワインを飲み干す。
そのスピードが上がるにつれて、瞼が重くなっていった。