政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
こんなにも寝つきの悪い夜は初めてだった。
何度寝返りを打っても、眠気は遠のくばかりだった。頭の中では日和のあの壊れそうな顔が浮かぶ。あんな顔をさせたいわけじゃなかった。
無理に結婚を申し込んで弱みに付け入いるように勝手に夫婦にさせた。その罪悪感は彼女と距離を縮めようとするたびに深く俺の心に積もっていく。
“夫婦”になれば、すぐに彼女と距離が縮まると思っていたのに…―。
俺が触れようとすると顔だけでなく、体も強張らせて無理に笑う日和を見るとこの結婚が良くないものだったことは明白だった。
離すこともせずに、いつか俺に好意を抱くことを祈ることくらいしかできない自分が嫌いだ。
王子様のような、優しそうなあの松堂という男がおそらく日和の”好きな人”なのだろう。
たまたま車内で日和を見かけたとき、俺には見せない自然な笑顔を隣にいる男に向けていた。それが悔しかったし、沸き起こる嫉妬心でどうにかなりそうだった。
だが、それをぐっと呑み込んで態度に出さないのが大人であるはずだ。
日和のことになると勝手に感情が暴走する。
「はぁ…眠れねぇ」
上半身を起こして一人では広すぎるベッドの上で何度目か数えきれないほどのため息を溢した。
と。
「は…?日和?」
突然ドアが開いた。