政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
真っ暗い部屋の中、ぼんやりと浮かぶシルエットはどう見ても日和だった。
眉根を寄せて、そのシルエットを凝視するとそれは俺のベッドに近づく。
「日和?」
彼女の名前を呼ぶが返事はない。つまり日和ではないということだろうか。いや、それはない。

 彼女と俺以外この家にはいないから、だ。
何の迷いもなくそれが俺のベッドの前まで来ると、そのシルエットがやはり日和であると確認できた。
眠たそうに眼を擦っている。部屋を間違えたのだろうと、俺は日和の名前を呼んだ。
しかし、彼女は…―。

「は?!日和?!」

俺のベッドに入ってくる。焦る俺とは対照的に、当たり前のようにベッドに入ってくる日和の様子が明らかにおかしい。
「日和、」
大きな声で彼女を呼ぶが、顔が近づいたことで何故このような状況に陥っているのか理解した。
「日和…酒飲んだ?」
「んん、」

 スヤスヤと気持ちよさそうに眠る彼女から返事はない。
だが、しっかりとアルコールの香りがする。
「まじかよ…」
この状況は本来嬉しいはずなのに、素直に喜べないのは先ほどのキスのせいだ。無理やりしてしまったキスの後悔のせいで彼女に指一本触れることが許されないように思う。
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