政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】

 ようやく顔を離してくれた時には、骨を抜かれた魚のようにぐったりとして指一本動かせない。

「日和」

 名前を呼ぶ彼は私を余裕そうに見ている。私は全く動くことが出来ないのに狡いと思った。

「エロい、その目で煽るのやめてくんないかな」

 意味がわからず眉を顰めるがそれがやっとだった。声を出そうにもそれすら億劫に感じる。
どうしてしまったのだろう。私は、本当にどうしてしまったのだろうか。
 楓君の体の重みが消えた。彼は隣に体を預けて、ようやく離れてくれた。でも緊張が解けたわけでもないし、まだ体の“フワフワ”した感じが抜けてくれない。

「はぁ、マジで我慢できるかわかんない」
「…?」

 隣に移動した彼に顔を向けた。ぐったりした状態で彼の発した言葉の意味を考えるものの、輪郭を掴むことが出来ずに目を閉じた。
 突然襲ってきた眠気は、一瞬で様々なエネルギーを使ったことで引き起こされたのかもしれない。
楓君が私に腕を伸ばす。薄っすら目を開けると既に彼に抱きしめられていた。

 まるで、愛されているようだと思った。
本当に、それは誤解してしまうほどに私を大切にしてくれていると感じた。


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