政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「舞衣子がお母さんになるんだ」
舞衣子が帰った後、後片付けをしながら一人呟いていた。
まだ出会ってそこまで時間が経過していない中で、既に子供が出来ているということは…お見合いしたと同時くらいに体の関係があったということだろうか。
いくら仲がいいとはいえ、デリケートなことを聞くわけにはいかない。
素直に凄いと思った。すぐに夫婦となり、家族になることに。それほど惹かれる何かがあったのだろうか。
キッチンシンクの水アカを掃除しながら、そのことをずっと考えていた。
楓君が帰宅したのは夕方だった。
「ただいま」
といった彼はやはり少し疲れているようだ。私にはわからない重圧やストレスがあるのだと思う。
夕食を食べ終えていつものまったりした時間をリビングで過ごしていると楓君が思い出したように口を開いた。
「そうだ、来月くらいにはホテルの清掃の仕事できるように手配しておいた」
「え?本当に?ありがとう、嬉しい」
「うん、ほとんどの人は日和の夫が俺だってことは知らないようにしておいてもらってる」
「わかった!頑張ってみるね」
「でも無理すんなよ。そもそも働かなくてもいいんだから」
「無理してないし、大丈夫だよ。私も外で働いて勉強したいんだ」
隣に座る彼は、そうなんだと返したがやはりどこか心配そうだ。
早く働きたいのは、清川さんの影響が大きい。楓君の妻として、私は周りからどのように見られているのだろうか…。