政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
ホテルに入ってすぐに小さいショルダーバッグの中からスマートフォンを取り出して楓君に電話をした。

「もしもし?日和」
「楓君、今着いたよ」
「わかった。今行く、その場から動かないで」

一方的に電話が切られた後、数分で楓君が現れた。
仕事モードの彼を見る機会は少ないから、ドキドキしていると誰よりもオーラのあるスーツ姿の彼が前方から歩いてくる。家にいるときのあの気だるげな彼はそこにはいない。

「日和…?」
「楓君!」

 楓君が私に気づくとその足を止めた。
どうしてか楓君は酷く驚いている様子で数回瞬きをした後にもう一度私の名前を呼んだ。

「日和…」
「どうかした?えっと、もしかして似合ってないかな」

 先ほど脱いだコートを手にしたまま、立ち尽くしていると楓君が一歩距離を詰めた。


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