政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「いや、違う。似合ってる」
「あ…そっか。ありがとう」
「うん。すごく似合ってる。可愛い」
「…」
まさか彼から可愛いと言われるなど思ってもいなくて表情を固定したまま視線を泳がせる。お世辞かもしれないし、本心ではないかもしれない。
それでもそんなたった一言で動揺してしまうのはその一言が”好きな人”から言われた言葉だからだ。
顔に全身の熱が集中したように感じて思わず両手で自分の頬を包み込むと楓君が私に「先に部屋に行こう」と言った。
「部屋?」
「そう。今日宿泊する部屋に荷物とかおいておけばいいよ」
「わかった…」
荷物と言っても今日家を出る前に衣服など彼がホテルに運んでくれているからコートくらいしかない。
楓君に促されて私たちはフロントを通り過ぎ、エレベーターに乗る。
彼が39階のボタンを押した。
楓君が普段よりもかっこよく私の目に映っているのは仕事モードだから?スーツ姿だっていつも家で見ている。見慣れているはずの彼なのにいつもと違うのは私が意識しているからだろうか。
エレベーターの扉が開いた。